「ヒト」「モノ」「カネ」ではなく「ヒト」「ヒト」「ヒト」――壁を越えていくスタートアップの作り方

 2018年9月11日、株式会社コンカーが主催となり、経理財務部門向けクラウドイベント「SAP Concur Fusion Exchange 2018 Tokyo」が開催されました。「バックオフィスに、デジタル変革を。」をテーマに掲げた同イベント。夕方、ネットワーキングパーティの場となった展示会場メインステージでは、パネルディスカッション「組織で勝つ。スタートアップ、経営陣の作り方」が行われました。

 このプログラムでは、急成長企業の代表格であるビズリーチの代表、マイネットの事業転換を牽引し上場へと導いた副社長(元CFO)、今年7月にユーザベースグループとなった米Quartzの新任CFOが、経営者やコーポレート部門の幹部に向けて、スタートアップのビジネスデザイン、チームデザインについて公開議論しました。

【パネリスト】

株式会社ビズリーチ 代表取締役 南 壮一郎 氏

bizreach-minami1999年、米・タフツ大学数量経済学部・国際関係学部の両学部を卒業後、モルガン・スタンレー証券に入社。東京支店の投資銀行部でM&Aアドバイザリー、その後、香港・PCCWグループの日本支社の立ち上げに参画。2004年、楽天イーグルスの創業メンバーとして各事業の立ち上げをサポートした後、GM補佐、ファン・エンターテイメント部長、パ・リーグ共同事業会社設立担当などを歴任した。その後、ビズリーチを創業し、2009年4月、即戦力人材に特化した会員制転職サイト「ビズリーチ」を開設。

株式会社マイネット 取締役副社長 嶺井 政人 氏

mynet-minei1984年生。早稲田大学在学中にマーケティングソリューションを提供する「株式会社セールスサポート」を創業し、軌道に乗せた後、株式会社ネオマーケティングへ売却。2009年4月モルガン・スタンレー証券に入社し、投資銀行業務、クレジットリスク管理業務に従事しテクノロジー業界の資金調達や格付業務を担当。2013年3月マイネットに転進し、執行役員CFO戦略室長に就任。2014年11月取締役CFOを経て、2016年3月取締役副社長に就任(現任)。2017年2月に株式会社ネクストマーケティングを設立し、代表取締役に就任(現任)。 

【モデレータ】

Quartz Media LLC CFO 太田 智之 氏

quartz-otaUBS証券、三菱UFJモルガン・スタンレー証券にて、テクノロジー分野の企業を対象に、M&A(企業の合併・買収)アドバイザリー、エクイティ・デットファイナンス等、約14年に渡り投資銀行業務に従事。案件のオリジネーションから実行までサポート、クロスボーダーを中心に広範な地域でM&A案件を数多く成約に導く。シリコンバレーオフィスでの勤務経験も持つ。2017年1月より、株式会社ユーザベースに参画し、執行役員に就任。2018年8月よりQuartz Media LLCのCFOを務める。

新規事業の立ち上げで苦労する「3つの壁」

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太田:既存事業を大きくすることと、新規事業を立ち上げることでは、かなり違いがあるのではないでしょうか。まずは、お二人に実体験に基づいた苦労や苦悩などの克服方法を伺います。

 今回は、2つの切り口でお話ししてもらいたいと思います。1つ目は、新規事業を展開する際の「3つのステージ」での克服の仕方です。どんな事業にも、新しいことに取り組む「立ち上げ期」、売り上げが立ってきた「成長期」、ある程度大きくなり巡航速度にのる「安定期」の3つのステージがあると思います。ステージごとに悩みは変わっていくでしょう。実際、どんな壁があったかをお聞きしたい。2つ目は、別の軸として「ヒト」「モノ」「カネ」の3つの重要要素については、どんな苦労があったのかを聞いていきます。

 まずは南さんにお聞きします。事業フェーズを3つに分けたときに、どのフェーズで最も高い壁にぶち当たりましたか? また、それをどう克服したのでしょうか。

:最近、色々な方に新規事業のコツをよく聞かれるのですが、私は「営業には営業の」「マーケティングにはマーケティングの」「経理には経理の」様々な「型」があると思います。そして、もちろん新規事業にも型があります。

 私にとって師匠と呼べる方が何人かいるのですが、そのなかの一人にカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)の増田宗昭さん(代表取締役社長兼CEO)がいます。ビズリーチを立ち上げた当初、増田さんから新規事業の重要なポイントを教えてもらいました。

 それは「1」「3」の法則です。「1」「3」に「0」を加えていくと「10」「30」「100」「300」「1000」と続きます。これが企業の成長フェーズにおいて、必ず訪れる「組織の壁」だと教えていただきました。1人から3人、10人から30人と事業に携わる人が増えていく中で、組織階層の形成に苦労するというのです。「100人」の壁にぶつかってから何か対策を練るのでは遅すぎます。「事前に壁にぶつかることが分かっているのであれば、逆算してその対策を行いなさい」というアドバイスを受けました。

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 私自身が最も苦しかったのは、ビズリーチを立ち上げた「1」の時期でした。なぜかというと、人を採用できなかったからです。

 もはや時代は「ヒト」「モノ」「カネ」ではなく、「ヒト」「ヒト」「ヒト」だと思います。「モノ」「カネ」ばかりを考えるのは現代にはそぐわないと思います。「ヒト」がいれば、「モノ」は作れるし、「カネ」も集まってきます。重要なのは、予測できる将来の組織階層の壁を乗り越えていくために、どのように「ヒト」を集め、またその「ヒト」にどのように活躍してもらうかを事前に考えることができるか。それを戦略として組んでいくことが、スケールする事業の作り方だと思います。

嶺井:それぞれのタイミングでは、他にどのようなアドバイスを受けましたか?

:事業が大きくなると、規則やガバナンスなどをどのように策定するかが重要となります。また最終的には、それを取り纏めるマネジメントチームを形成することが必要となります。会社の先輩だった三木谷浩史さん(楽天の創業者)からは、創業する際に「組織の成長を見据えて、早い段階でいかに優秀な人材を採用できるかが重要だ」とアドバイスをいただきました。

嶺井:なるほど。私が一番苦しかったのも「立ち上げ期」でした。マイネットには2013年に入社しました。当時は今と違い、自社でスマホゲームを新規開発していたのですが、出せども出せどもヒットさせることができませんでした。運営に特化し、スマホゲームをM&A(合併&買収)する現在の事業は、この当時の七転八倒から生まれています。

 当時、ヒットが生まれず苦しむ中でリストラクチャリングを進めていたのですが、それでもなお発生していた余剰人員で、藁にもすがる思いで他社のリリース済みのゲームを運営したところ、元の会社が運営していたときよりも複数のKPIが良い結果となりました。そのとき、「ゲームの“開発”はうまくいかなかったが、“運営”は他のゲーム会社に負けない力があるのでは」という仮説を持ったのが、今の成長事業を展開する大きな転換点となりました。

太田:やはり「立ち上げ期」には皆さん苦労されたようですね。次に「成長期」「安定期」のフェーズではどうでしたか? 事業を立ち上げ、業績が上がって結果が出るとスタッフも喜びます。「結果は全ての苦労を癒す」とも言われます。しかし、立ち上げ期のがむしゃらなやり方を続けていくと、売上が上がっても素直に喜べないという時期、組織が疲弊するフェーズもあるのではないでしょうか。

 私自身も経験があるのですが、皆がある程度満足すると、慢心となり成長が鈍化してしまう状況に陥ることがあります。結果が出始めている中で、「満足してはいけない」「成長を止めてはいけない」というマインドをいかに持てるか。そういう壁にぶつかった経験はありますか?

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:そうした課題を乗り越えるのも、最後は「ヒト」に紐づくのではないでしょうか。新規事業や成長事業で既に活躍している人を、外部から連れてくることも非常に効果的な手段の1つです。

 有能な人を外部から連れてきて、適切な権限を渡し、仕事に取り組んでもらう。そこが事業の成長における重要なポイントだと思います。それができるか、できないかで大きな違いが出てくるのではないでしょうか。

嶺井:私も新規事業については「ヒト」が全てだと思います。どれだけ優秀な人材に来てもらえるかを常に考えています。ワクワクする、優秀な人材を魅了できるビジョンを掲げ、この人だという人にはとにかく声をかけています。その人が目指しているものは何か確認したうえで、ぜひ力を貸してほしいと口説いていますね。

太田:まずは行動することが大切ですね。行動することで、新たな発見が出てきます。事業を展開しているとうまくいかないことも多々ありますが、色んな人に会うという行動が何かを生むきっかけにもなります。

コーポレート部門は、部活動のマネージャー

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太田:それぞれの事業には夢やストーリーがあります。その実現には現場のプレイヤーだけでなく、プレイヤーを支えるコーポレート部門が必要になります。コーポレート部門は、「守り」と自分達で会社をより強くしていくのだという「攻め」の両役割を担うことが必要だと思います。コーポレート部門にフォーカスした場合、どういう組織を作っていくべきなのか、人材の配置を含めて採用の仕方などを伺いたいです。

:コーポレート部門も原理原則は変わらないと思います。私は、仕事とは「部活動」のようなものだと考えています。多くの部活動には「マネージャー」という役割を担う人がいます。マネージャーとして能力が高い人は、どの部活でも活躍できます。だからこそ、コーポレート部門のポジションで入社してもらうときには、どういうチームに所属して、どういう志や価値観を持ち、どういう結果を残したいか、という動機を明確にしておくことがより一層大切です。

 そうした価値観(バリュー)をしっかり共有した上で戦力になってもらいたいと考えて、チームビルディングを行ってきました。

太田:当社でも、企業文化として、本音で話せるオープンな会社になるように心掛けています。共通のミッションに向けてお互いが本音で話して、時にはぶつかり合いながら進んでいく――そこでは、どれだけ同じ価値観を持てるかが重要です。

:野球が上手い人は野球部へ、サッカーが得意な人はサッカー部にしか入れません。一方、マネージャーはすべての部活動で活躍できます。同じようにコーポレート部門の人は、自分で選べる選択肢がたくさんあります。ですから、優秀な人に入ってもらうために、ビジョンや方向性をきちんと示すことが大切だと思います。

 本当のヒーローはスポットライトを浴びていなくても、見えないところで成果を残しています。私は、自社においてコーポレート部門の人が活躍しやすいような文化があるかを重要視しています。

世の中は変えられる

太田:ここまでを総括すると、強い組織を作るうえでは、「ヒト」によりフォーカスを当てることが唯一無二の解ということになるでしょうか。最後に、今後はお二人がどのようなビジョンを掲げて事業経営を今後行っていくのかを教えてください。

嶺井:マイネットでは、中期的に領域ナンバーワンの成長事業を複数持つメガベンチャーになることを目指しています。そのためには、どれだけ優秀な人材に一緒に働いてもらえるかが大事です。自分自身が経営者として、ビジョンを掲げて人を魅了し続ける、人を口説き続けるということをやっていきたいと思います。そして、集ってくれた仲間がマイネットに来て良かったと思える成長機会を、新規事業の立ち上げを通じて数多く作っていきたいと思います。

:データとテクノロジーを活用して、日本の未来の働き方と経営の在り方を支えるようなサービスを作っていきたいです。今は時代の転換期にあり、こんなに面白いことはないと思います。また、これに取り組む中で、私自身が球団の立ち上げなどを通じて体感した「世の中は変えられる」という感覚を、社員のみんなにも持ってもらえるような機会を提供していきたいです。

太田:本日はありがとうございました。

最終的には「ヒト」が全て

 今回のトークセッションは、時折ジョークを交えつつ、終始和やかな雰囲気で行われました。最も印象に残った言葉は「最終的には『ヒト』が全て」です。新規事業や事業拡大のためには、まず「ヒト」をどう確保していくかが成長の重要なカギとなります。より良い人材を確保するためには、いかに共通のミッションを掲げて、オープンに語り合える、ぶつかり合える環境・文化を構築していけるかが大切ではないでしょうか。

(執筆:翁長潤 / 企画編集:野田洋輔)

著者プロフィール

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野田 洋輔
Back Office Heroes 編集長

大学卒業後、グローバルIT企業でのマーケティング、メディア企業での営業/企画/新規媒体立ち上げ、スタートアップ企業でのマーケティング/広報立ち上げなどを行い、2016年12月コンカーへ。PRドリブン経営を標榜する同社で、市場創造(マーケティング)に取り組む。興味本位に個人でスマホアプリをリリースした経験もある。落語が好き。お酒も好きだが、すぐに眠くなるのが昔からの悩み。「よそう、また夢になるといけねえ」の境地には至っていない。
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